お知らせ
【寄稿】モノを作る私がモノを壊すことに尽力した1年半
明和工業 株式会社 苫小牧工場 営業部 神山 浩
2022年7月某日 プロローグ
「メータ-を破壊してみないか?」
環境開発工業様の営業担当が私の耳元でそう囁いた。思わず耳を疑った。明和工業の設計者として17年、そんなセリフを聞いたことがない。思わず私はこう答えた。
「面白そうですね」
2022年8月某日 始動
「電気メータ-を破壊して電池を取り出す機械を作る」
初回打ち合わせ冒頭で営業担当はこう言った。なるほど、メーターを破壊する機械の目的は、電池を取り出すことなのか。しかし破壊とは…出席した各部署課長は言葉が出ない。もちろん私もだ。そのような中、営業担当は説明を続けている。
「CN(カーボンニュ-トラル)、そして設置後のお客様の使い勝手の観点から今回は電動化設備にする」
「確かに時代は電動化だが、油圧式のほうが安定して稼働する。電動化はお客様のニーズに合っているのか?」
参加メンバ-から声が上がると、営業担当は強い口調で言った。
「油圧式だと破砕の止める位置や壊す力をお客様側で変更できない。電動化により制御できることが多いし作業者の安全面を考えても電動式のメリットをお客様に理解してもらいたい。より良い機械を使ってもらおう!」
2022年11月某日 最初の壁
設計室のドアが開き、営業担当が電気メーターを持って現れた。
「考えるより実物を破壊してみようぜ!」
そう提案してきた営業担当の目はキラキラと輝いている。その時、我々は多忙な時期。ストレス発散には丁度良いかもしれない。
「社内のプレスでトライしてみましょう」
私もそう答え、いよいよ実物トライが始まった。圧入用のプレス機と鉄板を曲げるための部品を使いメ-タ-を押しつぶしてみた。予想はしていたが、思ったより上手く破砕できない。
壊せると考えてはいたのだが、様々な素材があり種類によって壊れ方が全然違う。どのような壊れ方が正解なのか。正解探しからのスタートだな、とこの時思った。
2022年12月某日 トライ&トライ&トライ&トライ
社内検討会。トライした際の動画と結果を見ながら喧喧諤諤。
「推力の目安は付いたが、刃具の形状に問題があるな」
「材料の粘性が高いので、もう少し力を加えるところを増やして、割れるきっかけが欲しいかも」
意見が飛び交うようになったが、次の方針が決まらない。当社の圧入機でできる範囲内での意見も出れば、別方向からの意見も出る。当然費用の問題もある。
そのような中、営業担当は参加メンバ-に言った。
「初めてのことをするからトライが必要なのです。我々の原点は油圧シリンダーを製作し、それを圧入すること。今までの経験と知識でトライしていきましょう」
営業担当はProjectOrigin(プロジェクトオリジン)という言葉を発した。「原点に戻り良い設備を作ることと新しい分野の原点を作る」という意味だ。ProjectOriginはそのために必要な視点だ。
「まずは、お客様に見てもらって、次の方針を一緒に決めよう」
2023年2月某日 前進
そして環境開発工業様との合同トライ日を迎える。メ-タ-の向き、置き方などについて環境開発工業様からも積極的に意見が出てくる。社内の議論同様にこちらでも喧々諤々。その中で営業担当が切り出した。
「刃具の形状を変更すると、もう少し違う結果が出るかもしれません」
それを聞いた環境開発工業様は即答。
「トライ用の形状を変えた刃具を作りましょう、すぐに設計に入って図面と見積りを送ってください」
「物事を言葉にすることで結果が付いてくるはず。思っていることや欲しい結果をドンドン言い合いましょう」
今思えば、この一言で我々は一気に動き出した気がする。
2023年4月某日 加速
ようやく完成した専用新作刃具でトライを開始。前回の結果に基づき、形状には自信があった。しかし心臓がバクバクする。結果は…トライに立ち会った営業からも声がでる。
「おおぉ、良いねぇ」
開発設計をやっていてうれしい瞬間だ。
そしてその1か月後には環境開発工業様も交えて2度目の合同トライを実施。
「やっぱり形状を変えると良いね」
「もっと置き方を変えて試そう」
工場内に響くメータ-の破壊音と歓声、そして飛び交うアイデア。
居合わせた別の部署が一言、
「凄い盛り上がってるね。満足してもらえそうだ…」
この、プロジェクトが加速していく感じがたまらない。
2023年6月某日 折り返し地点
この時、すでに話を頂いてから1年が経っていた。
合同トライを経て作成した設備仕様図で環境開発工業様の関係各所様に説明するも、私たちが普段当たり前に思っていた設備仕様もお客様視点ではまだ不足がある。使う環境・業界が変わると要望も仕様も変わってくるのだ。
「今回の仕様変更を踏まえて、再構想を用意いたします」
より操作しやすい環境を作ろう。まだまだ、このプロジェクトは折り返し地点なのだ。
2023年7月某日 まだ見えないゴール
最終仕様構想図を提出。説明にも力が入る、長かったトライと構想が実を結ぶ瞬間が近い。
その帰りの車の中で営業担当はこう言った。
「来月追加でフィードバックを貰うから、次のトライに力を貸してね」
あれ?最終じゃなかったのか??設備ひとつをとっても、リサイクル事業の道は本当に本当に長い。
2023年10月某日 惜別
いよいよ設備製作が決まり詳細部の設計が始まった。ProjectOrigin(プロジェクトオリジン)という言葉に乗せられながら進めてきた設計だったが、会社の都合で私は担当設計から離れなければいけなくなってしまった。設備完成まで手掛けたかった。無念。設備の設計は全ての部署が全力で進めている。仲間に任せて、必ず良い設備が出来ることを信じて、引継ぎを始めた。
2024年1月某日 前へ、前へ
惜別したと思いきや、引継ぎをした後任が突然異動。この時私はまたプロジェクトに関わっていた。設備の組立段階で担当者から
「刃具の取付方法を変更したい。もっと作業性と安全性を高めたい」
との要望が出た。すぐに変更部品を設計・製作開始となった。このような変更は、各部署がしっかり各分野の視点で確認して作業を進めている証拠だ。頼もしい。
2024年2月某日 初破壊
各部署の人が設備前に集まってくる。ついに初の設備によるメータ-破壊だ。私もドキドキしながらその瞬間を待った。
「メ-タ-をセットして、1個目いくぞ!!」
「…思った様にいかない」
複数個のトライを進めたがバラツキが大きい。
「セット位置の下にも刃を追加したらどうだ?」
「すぐに作って試そう!」
そう言って加工場へ向かっていく背中はまさに職人。頭の中でプロジェクトXのテーマ曲が流れた。
2024年3月某日 エンドロール
いよいよお披露目。環境開発工業様が設備を見に来られた。2月には当社での調整も終わり、更なる改善も実施してきた。破片を清掃しやすくするためのカバ-を追加した。設備カバ-部の隙間を徹底して埋めた。清掃具合にも徹底してこだわった。
環境開発工業様の到着で高まる緊張感。
結果は…。
大好評!!
完成して高まる安堵感。しかし、まだまだ出てくる設備への希望と言う名の要望。納入まで改善は続く。
当社での出荷前点検も終わり、更なる改善が行われる中、納入直前のある日、設備担当が私のところに相談に来た。
「もう一度破砕したい形のメ-タ-があるんだが、今手元になくて」
「もっと良いセット方法があると思うから試したい」
環境開発工業様に連絡すると
「メーターならいくらでも取りに来てください!」
と二つ返事。
そのメーターを取りに行った際に、既に使っている設備をもう一度確認…我々の設備より画面の構成や表示に優れた点があった。納入日まであと僅か。僅かなのだが、電気担当者も良い点は素直に取り込もうとそこから修正。ギリギリまで改善し続けながら、搬入の時を迎える。
そしていよいよ搬入の日、移動のための準備を施しトラックを待つ。
この設備の名前は「D3-PO」
Digitalmeter(デジタルメ-タ-)
Demolition(ディモリション)
Device(デバイス)
Project(プロジェクト)
Origin(オリジン)
何処かで聞いたことがある?と一瞬思ったが、今はもう最初に聞いた時の様な違和感がない。すっかり私たちに根付いた名前になっていた。どうか我々明和工業と環境開発工業様双方に良い影響を与える存在として活躍してほしい。
「D3-PO」を載せて車を走らせること1時間弱。環境開発工業様に到着して皆で協力して設置し、いよいよ試運転開始!
確認や説明を終えると
「良ければ設備と一緒に集合写真を撮りたい」
という声が聞こえた。そっと遠慮しようと避けた我々に
「一緒にどうぞ!」
と笑顔で言われた。驚きと照れが隠せない集合写真が出来上がった瞬間、1年と9ヶ月の開発と製作プロジェクトのエンドロールが流れた気がした。
それから約1週間が過ぎた。設備は順調に動いているのだろうかと思いながら仕事を進めていると営業担当が近づいてきてこう言った。
「環境開発工業様の新しいトライの準備が出来たから始めるよ」
「面白そうですね」
と私は呟いた。また新しい開発がスタ-トする。
※ 本装置の開発、設計、製造にご尽力いただいた 明和工業株式会社 様のWEBサイトも是非ご覧下さい